何の因果か

学んだことや生活の様子

読書メモ『<叱る依存>がとまらない』p.61~

★叱ると人は気持ちよくなる

誰かを叱ると、相手は大抵すぐ謝ったり、言われた通りに行動を変えたりする。自分がはたらきかけることで相手の望ましい行動が生まれたという体験は、叱る側に充足感を与える。叱る以外でも、「自分の行為には影響力がある」「自分が行動すると良いことが起きる」といった感覚は自己効力感と呼ばれ、人間にとって報酬となる。

 

相手の望ましい姿が「即座に」現れることに加え、叱るという行動は処罰感情を満たすため、脳内の報酬系回路を活性化させる。叱る=快感が伴う行為であり、「相手が悪い」と思っている限り叱りたい欲求は膨らみ続ける。※いつの時代も勧善懲悪の物語は人気で、ラストで悪人が懲らしめられて一件落着する。これは処罰感情の充足が人に与える快感をうまく利用したエンタメといえる。犯罪者の公開処刑も同様。

 

★叱ることがエスカレートする背景

人には、同じ刺激が繰り返されると「馴化」と呼ばれる変化が起きる。これは特定の刺激が長時間繰り返されることでその刺激に対して鈍感になり、反応が徐々に薄くなっていく現象のこと。「叱られる」という体験においてもこれは起こり、叱られることに慣れると、人は今までのようにすぐに謝ったり行動を改めたりしなくなる。叱る側にとっては「ご褒美が得られなくなった!」という状態で、より強く激しい言葉を使って相手にネガティブ感情を与え、思い通りに動かそうとする。これまでと違う強い刺激に相手が反応し、行動を変える姿を見て「やっぱり厳しく叱らないとダメだな」などと思う。→叱ることが常態化すると、叱る人がより過激な行動をとるようになるというメカニズムが存在している。

 

★強い刺激による副反応

人はあまりにも強烈な刺激を受けると、その後とても弱い刺激にも敏感に反応するようになる(鋭敏化)。例えば大地震の直後は、今まで気づかなかったようなほんの小さな揺れも敏感に感じ取って恐ろしく思ったりする。「叱る」においては、一度強く叱責し相手が泣き出してしまうような状況を生み出すと、叱られた側は次回から小言程度でも過敏に反応するようになったりする。強いネガティブ感情体験は記憶に残りやすく、また消えにくい。そして強烈な苦痛は馴化が起こりにくいため、ひどく叱られた側は叱られていない時も常に鮮烈な苦痛の記憶と共に過ごすことになる。

 

★そもそも依存症とは?

脳科学辞典によると依存症とは「快情動を生じる物質の摂取や行為などを繰り返し行った結果、これを求める耐え難い欲求が生じ、これらを追い求め、これらがないと不快な症状を生じてしまう状態」。かつて依存症は「意志が弱い」などの性格の問題にされがちだったが、近年では条件さえ揃えばどんな人でもなりうるリスクのある心の病の一つと考えられている。

 

自己治療仮説によれば、人は無意識のうちに自分自身の苦痛を和らげてくれるものに依存するという。実は危険薬物を一回経験しただけで依存症になる人はあまりいない。「前提として何らかの苦痛を抱えている場合」、依存症は起きやすくなる。落ち込みや空しさを抱えている人が覚せい剤に依存したり、不安や緊張に悩んでいる人がアルコール依存に陥ったりする。依存症のリスクを高めるのは「受け入れがたい現実」で、その現実を一時的であっても忘れさせてくれるような快感や体験に、人は依存する。

 

★叱る依存は、叱る側に「うまくいかない現実」がまずある

叱らずにいられない、は苦痛から解放される快を得る行為という意味で、依存症の発生メカニズムに似ている。叱る側がそもそも自己評価が低かったり、他者への劣等感、あるいは慢性的な疲労などの「受け入れがたい現実」を抱えている場合がある。そこへ自分より立場の弱い人が、自分的には間違っている姿で現れる。「叱る」という行為で、目の前の現実があるべき形に変わる。これは叱る側に大きな充足感をもたらし、脳内ではドーパミンが大量に放出される。抱えていた苦痛から一時的に解放され、ほっとするような体験となる。